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縄文の祈り

三内丸山遺跡(青森県)の名前は、
日本史を選択していない人も聞いたことがあると思います。
500人近くの人たちが集団で生活していたと考えられ、
掘立柱の建物や人工的に造成されたクリ林が発見されるなど、
〈貧しく未開な縄文時代〉というイメージを一変させた遺跡です。

その集落の中心から外部に向かって延びる道路の両側には、
高さ約2メートル・幅約420メートルにわたって墓地が作られていました。
まるで死者の魂に囲まれて中へ入って行くかのようです。
さて、ここで注目すべきは、
乳幼児や死産した胎児の亡骸は、成人とは別の場所に、
特別な土器にいれて埋葬されている、ということです。
どんなに〈豊かな縄文社会〉というイメージが作られようとも、
過酷な自然環境であったことに変わりはありません。
亡骸の大きさなどを調べると、
4人に3人が15歳になる前に亡くなっていたと考えられます。
だからこそ、今度こそ元気に育って成人してほしいとの願いを込めて、
子どもを手厚く葬ったのでしょう。

魂の再生を願う気持ちは、
縄文時代の一般的な葬法にも現れています。
縄文時代には、屈葬と言って、
足を折り曲げて膝小僧を腕で抱え込むようにして埋葬されました。
遺体を強く縛ったり、お腹に石を抱えさせたりしたものも見られます。

http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/4/4-15.html


なぜ屈葬が行われたのか? その理由として、
穴を掘る労力を省く(足を曲げれば直径1メートルほどの穴で済みます)、
死霊が活動して生者に災いをもたらすのを防ぐ、
といったことが従来は言われてきました。
しかし、生活空間の出入り口を取り囲むようにして、
荘厳に作られた三内丸山遺跡の墓地を考えれば、
そのような死者の扱いは縄文人に似つかわしくありません。
それよりも、僕が魅力を感じるのは、
再生を願って胎児の姿にして大地に返したという説です。
例えば、環状列石(ストーンサークル)で知られる大湯遺跡(秋田県)も、
共同の祭祀場であったと考えられています。

縄文時代のゴミ捨て場とされる貝塚も、
〈再生への祈り〉という観点から捉え直すことができます。
自然からいただいた恵みを、自然に再び返す送り場。
貝塚から人骨が発見されるのも決して不思議ではありません。
縄文人は亡骸をゴミ同然に扱った--違います。
人間の亡骸も動物の骨や貝殻も、同じ生命あるものとして、
縄文人は自然に送り返したのです。

生命あるものに魂を看て取り、再生への祈りを込める。
女性をかたどった土偶は、縄文人の豊かな精神世界を象徴する人形です。
さまざまなデザインの土偶がありますが、
共通して乳房や下半身をふくよかに成形していることから、
生殖を祈る祭祀に用いられたと考えられます。
(なお、土偶は完全な状態で出土することはなく、
ほとんどの場合、足や腕を打ち欠いた痕があります。
最近の、CTスキャンなどによる解析では、
足や腕の部分は最初から造りが脆いことが確認されているそうです。
恐らく、祭祀が終了した後に、
土偶に宿ったマジカルな生命を自然に送り返すため、
一部を打ち壊したのだと考えられています)

子どもを背負ったり抱いたりしている土偶(東京都宮田遺跡など)は、
わが子への慈しみの気持ちを強く感じさせます。
また、神奈川県中屋敷遺跡から出土した土偶形容器は、
中に乳幼児の遺骨を納めるために用いられたものです。
土偶にも〈再生への祈り〉が込められていたことは間違いありません。

掌を合わせた、お産の様子と考えられる合掌土偶(青森県風張1遺跡)
現代的なデザイン性も感じさせる縄文のビーナス(長野県棚畑遺跡)
宇宙人のような容貌の遮光器土偶(青森県亀ケ岡遺跡)
『国宝土偶展』(東京国立博物館)で一同に会した、
全国各地の表情豊かな土偶を見ながら、
縄文人たちの〈祈り〉の強さを感じました。


僕に『小論文時事テーマとキーワード』を書かせようなどという、
前代未聞、罪業のかぎりを尽くした企画に許可を与えた、
旺文社の高校文系グループのマネージャーはどうお感じになったのでしょうか?
 

コメント

相澤先生より突然のご指名なので、私も『国宝土偶展』(東京国立博物館)の感想をひとつ。相澤先生が仰っている通り、縄文人の〈祈り〉が感じられる土偶群でしたが、〈祈り〉という言葉ではすまない、禍々しいまでのパワーが感じられる凄まじい存在感に圧倒されます。また現代アートをせせら笑うかのような、ぶっ飛んだデザインはやはり特筆ものでしょう。前を行くカップルの「こりゃエヴァンゲリオンの使徒だな」の言葉におもわず納得。人間の根源にあるドロドロとしたエネルギーが溢れでたような、もの凄い展覧会です。

コメント有り難うございます。縄文土器や土偶に見られるマジカルな生命力に注目し、現代芸術に持ち込んだのが、他でもない岡本太郎です。「太陽の塔」なんて土偶そのものではないですか。エヴァンゲリオンの使途に見立てたカップルの眼は、まったくもって鋭いと言わざるを得ません。ということで、「国宝土偶展」は相当なインパクトです。ぜひご覧下さい

いつも興味深く読ませていただいています。

ところで、経済のグローバル化に関する問題なのですが、日本がここまでリーマン・ショックの影響を被ってしまったのは、アメリカが日本に市場主義を押しつけ、小泉・竹中氏による規制緩和が日本経済をグローバルな経済から守る障壁をとっぱらってしまったことが原因であり、この対策としてアジアでの経済共同体の形成が望ましい、という認識は間違っていないでしょうか?意見の分かれるところなのかもしれませんが、もし、明確な誤りがあったら指摘していただきたいです。一応相澤先生の著書にも目を通した上で、リーマン・ショックがグローバル化とどう関わるか、気になったので、質問させていただきました。

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【相澤 理】
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職業:予備校講師

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相澤 理